【1】如来・羅漢・高僧

 如来とは「真理を悟った者」の意味で、輪廻転生から離脱し涅槃に入る者のことを指す。その代表として、チベット仏教では、ほとんどの宗派が釈迦如来〔釈迦牟尼仏〕を本尊とし、各寺院が釈迦如来を本尊として祀ってある。


仏伝図

タンカでは一つの主題を数枚に分けて描くことがある。これは、その内容が複雑であったり、多岐にわたっていたりして、どうしても一枚では描ききれないからである。チベットでは、歴史上の高僧の伝記などにこの例が多くみられる。
次に示される七枚のタンカは、いずれも釈迦の一生の物語の主な出来事を描いている。日本でも、「釈迦八相図」など、仏教の開祖である釈迦の一生に関連する仏画は多いが、チベットも同じである。これには、仏教の布教のために、釈迦牟尼仏の前世やその一生の物語が頻繫に使われたためである。これら多くの需要を満たすため、チベットでは木版画を用いて下絵を制作したりもした。これから紹介する七枚のタンカは、私のオリジナル作品で、伝統的なチベットの仏伝図とは少し違いはするが、ほぼ同じテーマで七枚にまとめてみた。


十八羅漢図

この二つのタンカも先の仏伝図と同じく、二枚の連作である。
羅漢とは煩悩を滅した修行者を意味し、釈迦の遺命により、弥勒仏がこの地上に降誕するまで涅槃にはいらず、正法を守りつづける役割を与えられた者たちのことで、日本でも五百羅漢など絵画や像としてよく目にする。チベットでは、十六羅漢、十八羅漢が一般的で、この二つのタンカは、それぞれに九人ずつの羅漢と四天王のうちの二尊ずつが描かれている。
この二つのタンカに描かれている十八人の羅漢たちは、それぞれ手に持っている持物には規定があるが、その表情・姿勢・着物などは絵師の好みで描く自由がある。それゆえ羅漢像にはバラエティ―豊かな作品が多い。


グル・リンポチェの伝記

チベット人の社会では、このタンカの中央に描かれている。グル・リンポチェは、釈迦牟尼仏に次いで篤い信仰を受けている歴史上実存したインド人である。その偉業からチベット語で「偉大なる導師」を意味する「グル・リンポチェ」という名前が付けられた。